「あなたとは他人だから」と母に…AV女優と家族との折り合い【紗倉まな×神野藍 対談第3回】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「あなたとは他人だから」と母に…AV女優と家族との折り合い【紗倉まな×神野藍 対談第3回】

【紗倉まな×神野藍】新刊同時発売記念〈対談全4回〉

  

◾️商店街で追いかけられて…

 

神野「紗倉さんは、私と全然違いますよね」

 

紗倉「私はもともと家庭内が……『たまたまその場に集まった人たち』みたいな(笑)。自由人3人集めちゃった、みたいなメンバー構成だったので。母親は、ある種で陽キャだと思うんです。とにかくしゃべるし、どんな時でも勢いと迫力がすごくて、全力ガムシャラみたいな。私はよく商店街とかで追いかけられたりとか……」

 

BT編集部「えっ、お母様が追いかけてくるんですか?」)

 

紗倉「追いかけてくるんです。鉄板焼き屋に二人で行った時に口論になって、私がお店を出ていったら、大声で名前を呼ばれて『金払わなきゃいけないから待ちなさい!』って叫ばれてやばいと思ったら、すぐに精算した母親がものすごい勢いで追いかけてきて。団地まで全速力で逃げて(笑)。帰る場所は一緒なのに何してんだよって話ですけど……。そんなパワフルな母親、と、なんでその人がこの人を選んだの? っていうような父親で。父親はめちゃくちゃ天才肌と言いますが、芸術的なセンスは抜群な人で。絵もすんごい上手だし何をさせても器用だし、まあ、たまに変な壺作ってたりしてましたけど」

 

神野「方向性が真逆ですね」

 

紗倉「才能あふれる人だったんですけど、働くとか、金銭を稼いで家族を養うみたいな考えがまるでない人で。働いてないのに働いたふりして借金して、それを口座に毎月振り込んで働いたことにしてて。毎月、同じ額が振り込まれているからお給料だと母親は思っていたけど、記帳して「あれっ、あいつ働いてないじゃん! ふざけんな!」 みたいなこともしょっちゅうでしたね。私は私でその二人の間にずっと立たされていたんで、二人の機嫌をとりにいったり、喧嘩の仲介役となり二人を宥めたりだとかで面倒臭かったです。私が中学の時に両親は別れて父は再婚したので、そこからは私はもう、家族は唯一母だけと思っていて。でも、私が母に再三言ってるのは、確かに私たちは血がつながってるし、私は母のことが大好きでリスペクトしててどんな時でも絶対にあなたの味方になる、でもね、すごく嫌いなんだよ、って。友達だったら絶対なりたくないし関わりたくないし、母親としてのあなたが好きなだけで、人間としてのあなたは悪いけれど好きになれない。で、私とあなたは結局のところ、他人です、と。私も母がすることには何も文句は言わない、好きに生きてほしい、そのための援助だっていくらでもする。だから私のことにも絶対干渉してこないでほしい、っていうふうに、ずっと刷り込みをしてて。で、母親はというと『え、ひどぉ~い何それえ〜』みたいな感じなんですけど(笑)。『血つながってるのに他人ってどーゆーことぉ?』って、全然、真意を理解しないんで」

 

BT編集部「お母様、ギャルすぎる……」)

 

紗倉「『また変なこと言ってるぅ!  絶対精神科行ったほうがいいっ!』って、中学生の頃に精神科に連れて行かれて。私は絶対、思い込みが激しくて娘に超絶過干渉で常にラップバトルみたいに話し続けている母のほうがカウンセリングを受けたほうがいいって思って…(笑)。診察室に入った瞬間に『先生! 問題があるのはこっちです!』って母を指さして逃げたんですよ」

 

神野「また逃げてる(笑)」

 

紗倉「母は病院の予約をしてるもんだから、私の名前は呼んでも追いかけてはこれなくて。すっきりしたなあ……。そしたらカウンセラーの人も、この母親は確かに問題があると思ってくれたらしく(笑)、『親業』(大和書房)っていう本を勧められて。その後、母はなぜか定期的にカウンセリングを受けるようになったんです(笑)。そうしたらいつの間にか私の言うことを素直に聞くようになっていて……。先生ありがとう!」

 

親との折り合い方はさまざま。『犬と厄年』『私をほどく』で、それぞれの家族への思いをさらに読むことができる。最終回となる次回は、2人にとっての「書くこと」について語ってもらった。

 

 

構成・文:BEST T!MES編集部

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✴︎目次✴︎

 

はじめに

#1 すべての始まり

#2 脱出

#3 初撮影

#4 女優としてのタイムリミット

#5 精子とアイスクリーム

#6 「ここから早く帰りたい」

#7 東京でのはじまり

#8 私の家族

#9 空虚な幸福

#10 「一生をかけて後悔させてやる」

#11 発作

#12 AV女優になった理由

#13 セックスを売り物にするということ

#14 20万でセックスさせてくれませんか

#15 AV女優の出口は何もない荒野だ

#16 後悔のない人生の作り方

#17 刻まれた傷たち

#18 出演契約書

#19 善意の皮を被った欲の怪物たち

#20 彼女の存在

#21 「かわいそう」のシンボル

#22 私が殺したものたち

#23 28錠1シート

#24 無為

#25 近寄る死の気配

#26 帰りたがっている場所

#27 私との約束

#28 読書について1

#29 読書について2

#30 孤独にならなかった

#31 人生の新陳代謝

#32 「私を忘れて、幸せになるな」

#33 戦闘宣言

#34 「自衛しろ」と言われても

#35 セックスドール

#36 言葉の代わりとなるもの

#37 雪とふるさと

#38 苦痛を換金する

#39 暗い森を歩く

#40 業

#41 四度目の誕生日

#42 私を私たらしめるもの

#43 ここじゃないどこかに行きたかった

#44 進むために止まる

#45 「好きだからしょうがなかったんだ」

#46 欲しいものの正体

#47 あの子は馬鹿だから

#48 言葉を前にして

#49 私をほどく

#50 あの頃の私へ

おわりに

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紗倉まな × 神野 藍

さくら まな × じんの あい

紗倉まな(さくら・まな)

1993年、千葉県生まれ。工業高等専門学校(高専)在学中の2012年にSODクリエイトの専属女優としてAVデビュー。著書に小説『最低。』『凹凸』『春、死なん』『ごっこ』『うつせみ』、エッセイ集『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』『働くおっぱい』などがある。初めて書き下ろした小説『最低。』は瀬々敬久監督により映画化され、東京国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされるなど話題となった。文芸誌「群像」に掲載された『春、死なん』が20年度野間文芸新人賞候補作となり注目される。最新エッセイは『犬と厄年』が絶賛発売中!

  

神野藍(じんの・あい)

文筆家、エッセイスト。元AV女優。1999年生まれ。2020年5月、早稲田大学在学中に渡辺まおとしてAV女優デビュー。2022年5月、現役引退後は、文筆家・タレントとして活動中。Webサイト「BEST T!MES」にて連載エッセイ「私をほどく〜AV女優「渡辺まお」回顧録」を執筆配信し話題となる。この連載をまとめた同タイトルの初著書初著書『私をほどく AV女優「渡辺まお」回顧録』を上梓。作家・鈴木涼美氏より「とても貴重な、心強い書き手の登場」と激賞される。「群像」(講談社)にて短編小説を発表。現在、新連載エッセイ「揺蕩と偏愛」を毎週金曜日に配信中。好きな本は谷崎潤一郎『痴人の愛』。趣味はトレーニング。

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